今回の患者様は定期的に倒れる、意識がなくなって力が抜けるとのことでご来院いただきました。
月齢が若いワンちゃんで典型的な年齢と犬種ではないですが、お話から失神を強く疑い長時間心電図検査を実施いたしました。
検査の結果日常的に洞停止が引き起っていることが判明し、症状も伴っていることから洞不全症候群と診断いたしました。
犬種:柴犬
年齢:1歳8ヵ月
性別:未去勢雄

*ベストの中に心電計が収納されています。


*今回の患者様の実際の心電図の一部。最大で16秒間の洞停止が確認されました。
一般的にSSSといわれる疾患は中~高齢の患者様の疾患になるため、今回の患者様は典型的な年齢ではありませんでした。
また長時間心電図検査を実施する前に心臓にその他器質的な異常がないか確認させていただきましたが、大きな異常は認められませんでした。
現在失神が認められない限りは非常に元気に生活ができているため、治療についてはご家族様と相談中となります。
犬の洞不全症候群(Sick Sinus Syndrome, SSS)について
1. 洞不全症候群とは?
洞不全症候群(Sick Sinus Syndrome, SSS)は、心臓の洞房結節の機能不全によって生じる不整脈の一種です。洞結節は心拍を調節するペースメーカーの役割を果たしており、その働きが低下すると、異常な心拍リズムが発生します。
2. 原因と発症のメカニズム
洞不全症候群の原因は、主に加齢や心臓の線維化による洞結節の機能低下と考えられています。以下の要因が関与することが多いです。
- 特発性変性:洞結節の加齢性変化や線維化
- 炎症性疾患:心筋炎や全身性の炎症性疾患
- 内分泌疾患:甲状腺機能低下症など
- 薬剤の影響:βブロッカーやカルシウムチャネルブロッカーの使用
3. 好発犬種と発症年齢
洞不全症候群は特定の犬種で発症しやすい傾向があります。
- 好発犬種:ミニチュア・シュナウザー、ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリア、ダックスフンド、コッカー・スパニエルなど
- 発症年齢:中高齢(6歳以上)での発症が多い
4. 症状
洞不全症候群の症状は、主に心拍数の異常によって発生します。
- 一時的な失神
- 運動不耐性(疲れやすい)
- 徐脈(異常に遅い心拍数)
- 頻脈と徐脈の交互発生
- 無症状で経過することもある
5. 診断方法
洞不全症候群は、心電図を用いた診断が基本です。
- 院内心電図
- ホルター心電図(24時間モニタリング)
- アトロピン負荷試験
一般的な院内心電図検査では不整脈を確認することが困難な場合も多々遭遇します。
6. 治療と管理
- 軽度の場合:無症状の場合は経過観察
- 薬物療法:
- テオフィリンやアトロピン、その他シロスタゾールなどの薬剤を用いて一時的に心拍を増加させる
- しかし、薬物療法は根本的な治療にはならない
- ペースメーカー植え込み(最も効果的な治療法)
- 失神や重度の徐脈を伴う場合、ペースメーカーが唯一の確実な治療法
- 長期的に心拍を安定させ、生活の質を改善
7. 予後
- ペースメーカーを装着すれば、ほとんどの犬は通常の生活を送ることが可能
- 無治療の場合、重度の徐脈による失神や突然死のリスクがある
- 進行性の疾患であるため、定期的な心電図検査が重要
まとめ
犬の洞不全症候群は、加齢や特定犬種に多い心臓疾患であり、失神や運動不耐性といった症状が見られます。診断には心電図検査が有効で、治療にはペースメーカーが最も効果的です。しかしながらペースメーカー埋め込み術は専門の診療施設での実施が必要なのと、高額な治療費費用的なところ課題ではあります。
発症リスクがある犬種では、定期的な心臓検査を行い、早期発見・早期治療を心がけることが重要です。