拡張型心筋症および腹腔内リンパ節の腫大を呈したフェレットさんが来院されましたので、
この機会にフェレットの心筋症についてまとめてみました。
✅ フェレットの心疾患
・弁膜症
☞ フェレットでは大動脈弁に異常を生じる事が多いと言われています。
☞犬では僧帽弁や三尖弁に異常を生じる事が多いです。
・拡張型心筋症(DCM)
☞ 心室筋が薄くなり、収縮力が低下するタイプの心筋症です
☞ フェレットにおいて比較的遭遇する心筋症のタイプです
・肥大型心筋症(HCM)
☞ 心室筋の異常な肥厚によって、心臓の収縮を阻害するタイプの心筋症です
☞ フェレットでは比較的マレな心筋症のタイプです
・心筋炎
☞ 感染症や自己免疫疾患に関連して生じるとされている
☞ 確定診断は病理検査で、生前診断が難しい
☞ 補助的な検査としてトロポニンIの測定を依頼する事もあります
(犬猫では外注検査の依頼が可能ですが、フェレット用はありません)
その他疾患
・フィラリア感染
・心臓腫瘍 など
✅ 診断
・シグナルメント
☞ 中齢以降に発症する事が多い(3歳以上)
☞ 他の疾患を併発している事が多い(副腎疾患やインスリノーマなど)
・症状
☞ 元気がない、寝ている事が多い、食欲がない、呼吸が早いなど
☞ 後肢が立たない(血栓症とは無関係で、明確な理由は不明)
☞ 非特異的である事が多く、症状だけ診断するのは実際難しいです
・身体検査
☞ 心筋症に関わらず、まず最初に行う検査です。
身体検査において重要なのは、その患者さんの重症度を見極める事です。
☞ 意識レベル、可視粘膜色、CRT、心雑音の有無、不整脈の有無などを手早く評価します。
・X線検査
☞ 側面像および仰臥位(VD像)を撮影します
☞ 肺病変の有無(肺炎との鑑別、肺水腫の有無を診断します)または、心拡大所見の有無(見た目の印象および、VHS測定を実施します)
※VHS (Vertebral Heart Score)とは、心臓サイズが胸椎の椎体何個分に相当するかを測定する方法です。客観的に心臓が大きいかどうかを評価する事ができます。VHSは犬猫の診療でも測定します。
⬇︎心筋症に罹患したフェレットのVHS(測定結果 VHS 6.25 / 正常なVHS 5.39± 0.45)
・超音波検査
☞ 心筋症の診断において最も重要な検査です。
☞ 重症度(左房拡大の有無や心臓収縮率[FS]など)、血液の逆流の有無、心臓壁の厚さ、奇形の有無などを評価します。
☞ 暴れてしまう場合は、鎮静処置が必要です。
出典:FERRETS,RABBITS, and RODENTS CLINICAL MEDICINE and SURGERY-FOURTH EDITION
・心電図検査
☞ 聴診にて不整脈があった場合、必要に応じて実施します。
☞ 軽度の不整脈は正常なフェレットでも生じる場合があり、重度の不整脈のみ治療対象となります。
☞ 第2度房室ブロックの発生が一番多い
第2度房室ブロック(⬇︎の部位で、心拍数が1拍抜けます)
・血液検査
☞ 併発疾患の除外のためにも重要(低血糖、腎疾患、貧血など)
☞ 多くの場合で他にも併発疾患があります。
✅治療
☞ 基本的な治療の考え方は犬猫と同様で、猫に順じて投与量が決められている事が多いです。
☞ 静脈留置の確保のため、場合によっては鎮静処置を必要とします。
・重症な場合(急性期)
☞ 酸素投与:
急性期には最も重要です。ICU管理が必要となります。
☞ 利尿剤の投与:
心臓の収縮力が低下した状態では、血液を十分に循環させる事ができずに「うっ血(=血液の渋滞)」が生じます。
うっ血が悪化すると、血液中の水分が肺、胸腔内、腹腔内で溢れだします(つまり、肺水腫、胸水、腹水が発生する)。
利尿剤は、これらを減少させ、心臓の負担を減らすため必要なのです。
☞ 強心剤の投与:
心臓の収縮力が低下している場合には、強心剤(ドブタミンやピモベンダン)を使用します。
猫の肥大型心筋症では適応できない場合もあるため、フェレットにおいても病態を考慮して使う必要があります。
☞ 血管拡張薬:
ニトログリセリンやACEI阻害剤は、静脈または動脈血管を拡張させ、心臓への負担を減らす目的で用いられます。ただ、すでに低血圧状態で使用すると、低血圧の助長や全身状態の病態の悪化を招く可能性があるため注意して用いる必要があります(血圧ずっとモニターしてないと怖いので使いにくい印象..)。
・無徴候の場合(慢性期)
☞ 心筋症のタイプや病院の方針によっても違いがありますが、一般的には下記の薬剤の内服によって維持治療を行います。
・強心剤(ピモベンダンなど)
・利尿剤(フロセミド、トラセミド、スピロノラクトンなど)
・降圧剤(ベナゼプリルなどのACE阻害剤、ニトログリセリン)
☞ 定期的にX線検査または超音波検査で悪化の評価をします。また、血液検査で腎数値の評価も重要です。
(利尿剤の投与や循環不全の影響で腎数値が上昇する可能性があるためです)
症状が分かりにくいため、早期発見が重要です🌱
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