頬に皮下膿瘍(膿のかたまり)が発生したモルモットさんの紹介です。
プロフィール
品種:アビシニアン
性別:未避妊メス
年齢:1歳半
☛比較的若いモルモットさんでも、顔面に膿瘍が発生することがあります。
主訴
数日前から顔の右側が腫れて、徐々に大きくなっているとのことでした。
☛顔周りは毛がフサフサのため、初期には腫れに気がつきにくいです。
☛腫れと同時に、食欲低下・流涎・排便の異常などが見られることがあります。
検査
身体検査を実施し、腫れた部分を触診しました。柔らかく波動感があり、液体が貯留していると考えられます。口の中をカメラで観察してみると
臼歯(奥歯)がかなり長い様子が確認されました。下顎臼歯の歯根に細菌感染が生じ、膿瘍を形成した可能性が高いと考えられます。
また、膿瘍に圧迫されて顎のずれが生じ、切歯(前歯)の歯並びにも異常が生じていました。
☛臼歯は上方向(口腔側)にも下方向(歯根側)にも伸びる事ができます。不適切な噛み合わせによって、上だけでなく下方向にも異常な伸長を引き起こします。
☛不適切な歯の成長によって、歯根に細菌感染が生じ、頬に膿瘍を形成します。
過長した臼歯の口腔カメラ写真↓
☛ このうな異常を『ブリッジ』といいます。左右の歯が橋渡しするように見えるためです。モルモットに特徴的な不正咬合です。
☛このような歯の状態では、舌の動きを邪魔してしまい、十分に食事ができません。
正常な臼歯の写真(書籍から引用)↓
画像の出典:Ferrets,rabbits,and rodentds clinical medicine and surgery. p278
治療
全身麻酔下で下記の治療を実施しました。
✔️ 膿瘍を切開し排膿させ、開放した状態に保つ
✔️ 臼歯を正常な状態まで切り揃える
排膿後の開放創↓
↓中に溜まっていた膿(実際はもっと大量でした)
☛膿瘍のあった部分を閉じない理由は、皮膚を閉鎖してしまうと、そこに膿がまたどんどん再貯留するためです。
☛常に排膿させつつ、下から肉芽が徐々に形成されてくる事を待ちます(空間が徐々に埋まっていきます)。2週間ほどで傷は半分ぐらいまで小さくなります。
☛自宅では、排泄される膿の洗浄と患部の消毒を実施してもらいます。
伸びていた臼歯もできるだけ短く矯正します(画質が最悪…ごめんなさい)↓
術後の経過(術後5ヶ月)
小さな孔が残っていますが、ここまで傷が縮小しまし、再発なく良好に維持できています。孔からは今も少量づつですが排膿が続いています。
臼歯や切歯は今も定期的に矯正が必要な状況であり、今後も再発に要注意です!
☛ 臼歯過長や歯根感染からの膿瘍形成は再発率が非常に高く、完治することはマレです。(悩ましい…)
☛ 自宅でのケアとても重要です。ご家族様の献身的なお世話によって、この状態をキープできていると言っても過言ではありません。
総括
✅下顎にできた膿瘍は、臼歯の異常に関連している
✅治療には手術が必要であり、開放した状態に保つ
✅完治は難しく、生涯的な治療および自宅ケアが必要
〜〜頑張って牧草いっぱい食べましょう〜〜