この記事は特定の治療を推奨するものではありません。
ベラプロストの有効性に関する過去のデータを共有する記事としてご理解ください。
1. ベラプロストとは?
ベラプロストナトリウム(商品名:ラプロス)は、猫の慢性腎臓病(CKD)に対する治療薬として、日本で承認された初の動物用プロスタサイクリン誘導体です。この薬は、腎臓の血流を改善し、腎臓病の進行を遅らせる効果が期待されています。
2. ベラプロストの作用機序
慢性腎臓病は腎臓の血流低下や炎症、線維化が進行することで悪化します。ベラプロストには以下のような作用があり、これらの病態を改善すると考えられています。
- 血管拡張作用:腎臓の血流を増加させる
- 抗炎症作用:腎臓の炎症を抑える
- 抗血小板作用:血液の流れを良くし、血栓を防ぐ
- 線維化抑制作用:腎臓の硬化(線維化)を抑え、機能の低下を防ぐ
今までベラプロストの有効性や安全性に関するデータは不足しており、まとまった情報がありませんでしたが、近年ベラプロストのこれらに関する情報が発表され始めています。

この研究は、慢性腎臓病(CKD)を患う猫に対するベラプロストナトリウムの効果と安全性を評価するために、日本で実施された二重盲検、プラセボ対照、多施設共同、前向きランダム化試験です。
対象猫の選定基準:
- 尿比重が1.035未満
- 血清クレアチニン値が141μmol/L(約1.6mg/dL)以上
- 尿蛋白クレアチニン比が1.5未満
これらの基準により、国際腎臓病研究会(IRIS)ステージIIからIVの猫が対象となりました。また、妊娠中、急性腎障害、心不全、糖尿病、尿路感染症、FIV、FeLV、FIP、腫瘍、肝疾患、出血性疾患の猫は除外されました。
試験デザイン:
- 治療期間: 180日間
- 投与方法: ベラプロスト群は55μgを12時間ごとに経口投与、プラセボ群は同様の外見の乳糖を含む錠剤を投与
- 主要評価項目: 血清クレアチニン値、血清リン・カルシウム比、尿比重の変化
- 副次評価項目: 血中尿素窒素(BUN)、体重、尿蛋白クレアチニン比、飼い主および獣医師による有効性と生活の質の評価
結果
・ 血清クレアチニン濃度はプラセボ群で上昇したが、ベラプロスト使用群では統計的な有意な上昇は示さなかった
・ リン・カルシウム比はプラセボ群で上昇したが、ベラプロスト使用群では統計的な有意な上昇は示さなかった
・ 尿比重はどちらの群でも統計的な有意な変化は認められなかった
副次評価項目
・BUNはプラセボ群の方がベラプロスト投与群と比較し増加した
・生活の質の変化に関して、プラセボ群とベラプロスト投与群を比較すると、ベラプロスト投与群の方が生活の質が改善した。
副反応
・有害事象についてはプラセボ群とベラプロスト投与群とで明らかな差を認めなかった。
このようにベラプロストには様々な腎臓関連の血液検査数値の悪化を防ぐ力があり、かつ大きな副反応を認めない有効な薬である可能性が示唆されたわけです。
しかしながら、この論文の中でも結果については様々な制限があることは述べられているため、腎臓病の患者すべてにベラプロストが有効である!と結論付けているわけではないことをご注意ください。
さらにベラプロストについて最新の研究データも共有させていただきます。

この研究は、慢性腎臓病を患う猫におけるベラプロストナトリウム投与群と全生存期間の関連性を評価するために、2017年から2020年にかけて実施された後ろ向きコホート研究です。
対象は、IRISステージ3のCKDと診断された134匹の飼い猫で、ベラプロストナトリウム投与群と非投与療法群に分けて解析が行われました。
結果ベラプロスト投与群では、非投与群と比較して全生存期間が有意に長いことが示されました。
この論文の中ではさらに生存期間のデータに影響を及ぼす因子を排除しより詳しくベラプロストの有効性について調査を行っています。
以上2つの論文からベラプロストが慢性腎臓病のネコにとっては非常に有効な薬である可能性が高まっているわけです。
ただ、薬の価格がやや高価であることが難点ですが…。
それを差し引いてもベラプロスト(ラプロス)には大いに期待が寄せられるところかと思います!
今後のさらなる情報に期待ですね!