我々さざんか動物病院が開院し早いもので3ヵ月が経ちました。たくさんのワンちゃん、ネコちゃんにご来院いただくなかで最近ワンちゃんのご家族様から皮膚病のご相談を多くいただきます。
一生懸命シャンプーをしているけど良くならない、小さい頃からフケが多く悩まされている、毎晩皮膚を掻く音で目が覚めてしまい夜寝れなくて困っている等ご相談内容はご家庭によって様々です。
皮膚疾患は我々ホームドクターが最も多く遭遇する診療分野でありますが、その治療は奥が深く、患者様に合わせて治療をオーダーメイドしていくことが非常に大切です。
病気を治療していくためには薬の内服や検査は確かに大切です。しかし皮膚病に関してはご自宅でのスキンケアが非常に重要な立ち位置を占めており、獣医師とご家族様と一緒に病気を治療していく必要があり、みなさんの協力が必要不可欠となります。
そこで今回から我々の獣医師としての経験と科学的根拠(エビデンス)を交え、正しいスキンケアの内容をいくつかのトピックに分けご紹介していこうと思います。
初回はシャンプー編です!
シャンプーは一昔前には皮膚病治療の大黒柱のようなもので、皮膚病のワンちゃんにとっては無くてはならない存在と考えられていました。シャンプーは体の汚れを落とし、においをとり、皮膚表面の常在菌の数をコントロールすることで皮膚病の治療に役立つと考えられ、現在でもシャンプーを必要としている患者さんが多くいらっしゃることは事実ですが、シャンプーにはデメリットが存在します。
<経表皮水分蒸散量(TEWL)の増加>
TEWLとは表皮から水分が逃げる量のことを表します。
皮膚は角層、表皮、真皮の3層の構造をなしており、角層は皮膚のバリア機能として重要な機能を果たしています。
この角層が健康であることで皮膚からの水分蒸散を防ぎ、外部からの微生物やアレルゲンの侵入を防いでいます。
非常に大切な役割を担っている角層ですが、シャンプーによってこの角質のバリア機能が障害されるのではないかといった報告が過去なされました。
健康な犬6頭でシャンプー前後でTEWLを測定した研究です。研究の内容として保湿剤配合のシャンプーと非配合のシャンプーを比較しTEWLの差を調べました。結果は想像の通り、保湿剤非配合シャンプーは保湿剤が入っているシャンプーと比べTEWLが有意に増加しました。さらに重要なポイントは増加したTEWLは3日経過してもシャンプー前のTEWLにもどっていませんでした (yoon et al JSVD 2012)。これは保湿剤が入っているシャンプーでも同じであり(保湿剤入りのシャンプーのほうがTEWLの上昇の程度はマイルド)、いかに保湿系シャンプーでも油断はできないことが示された研究でした。
つまりこの研究から我々が得られることは、シャンプーは皮膚のバリア機能を障害する可能性があるということです。
またアトピー性皮膚炎の患者さんでは健康な子と比較しこのTEWLが有意に高いことが明らかなとなっています(Shimada et al. Vet Dermatorl 2009)。
アトピー性皮膚炎はバリア病などとも呼ばれ、皮膚表面のバリア機能が弱まっていることが知られています。
アトピーのワンちゃんはもともと皮膚のバリア機能が弱まっており、TEWLが増加しているわけです。
ただでさえ水分が抜け落ちやすいアトピーのワンちゃんを頻回にシャンプーを実施したら皮膚がさらにダメージを受けそうなのは先ほどのシャンプーのお話でなんとなく想像がつくかと思います。
しかしアトピーの患者さんにもいくつかのパターンがあり、シャンプーが必要な患者さんがいることは事実です。
いわゆる脂漏症、多汗症といわれるワンちゃんはシャンプーが必要ですので、今回のシャンプーのお話をお読みになり、みなさんの判断でシャンプーをやめず、必ずかかりつけの先生に相談することをお勧めします。脂漏症の患者さんで多い犬種はウエスティー、シーズーが代表格であり、多汗症の好発犬種としてヨークシャーテリアやシュナウザーが知られています。該当する犬種のワンちゃんの場合注意してください。
以上がシャンプーの主なデメリットになります。
それでもシャンプーを日常的に実施する場合は保湿剤と一緒に使うことが非常に大切であり、さらに低刺激のシャンプー製剤を使用することをお勧めします。さらにシャンプーの仕方も重要になります。
次回はそんなシャンプーの仕方やどんなシャンプーが低刺激シャンプーに該当するのかをお話しようと思っております。
今回のトピックで何かご質問等ございましたらどんなことでもかまいませんのでご質問ください!