ウサギの消化管について

ここ数日、食欲低下・排便異常のウサギさんを診療する機会が多かったので、ウサギさんの消化管についてまとめてみました。ウサギの消化管の解剖・生理学は人間と全く違います。是非知っておきましょう。

✔️ 盲腸がとにかく大きい
ウサギの消化管は、食道 → 胃 → 十二指腸 → 空腸 → 回腸 → 盲腸 ・ 結腸 → 直腸の順で構成されており、ここまではヒトやイヌなどの動物と同じです。ですが、彼らは植物のみを食べる生き物であるために、消化管のある部分を巨大に進化させました。それが “盲腸” です。ウサギなどの草食動物にとって、盲腸は消化のメインであり、最も重要な部分です。

⬇︎ウサギの消化管の解剖(灰色の部分が盲腸です。大きいですね!)

           出典:Sabuj et al. Journal of Advanced Veterinary and Animal Research(2016).

✔️ 胃
・発達した胃底部が大きく張りだり、食物の貯蔵的な役割を担っています。
・噴門(胃の入口)と幽門(胃の出口)の括約筋が発達してるため、ウサギは嘔吐することができません。
・胃中の食渣は、24時間絶食しても無くなることはなく、持続的に少量ずつ小腸に送り出しています。
・胃内のpH 1-2であり、ヒトと同様に強酸性です。

✔️ 十二指腸、空腸、回腸
・全長で約3.5mです(およそ体長の10倍あります)
・回腸と盲腸の結合部に”正円小嚢”という解剖学的な場所があります。消化できない繊維と消化できる繊維を
仕分けするための場所で、ウサギに特有です。
 正円小嚢は、免疫細胞が集まった部分であり、消化管を腸内細菌から守る免疫機構として重要です。

✔️ 結腸
・近位結腸:”結腸膨起”というコブが明瞭な、結腸の始まりの部分です
・結腸括約部:神経繊維と筋肉で構成された部分で、盲腸便と硬便の排泄を調節しています。
       杯細胞という細胞からゼラチン状の粘液を分泌されて便をコーティングしています。
・遠位結腸:上行・横行・下行の3部構成となっており、腸壁はかなり菲薄しています。

✔️ 盲腸
・大きく発達した盲腸(消化管全体の40%!)を持っていますが、その壁は非常に薄いです。
・”後腸発酵“を行うため最も重要な部分です(後腸発酵については、後に記述あり)。
・盲腸内の上皮細胞は、栄養素・水・電解質などを効率よく吸収することができます。
・盲腸の先端部分には、”虫垂“という組織があり、免疫細胞が多数存在しています。この免疫細胞によって消化管内の
 細菌から体は守られています。

✔️ 後腸発酵ってなに?
・ウサギを含め草食動物は、栄養価低い植物のみを食べて生きています。なぜ、植物だけでタンパク質やビタミンなどの栄養素を賄うことが出来るのでしょうか?その鍵となるのが”後腸発酵“という非常に面白い仕組みを持っています。
→ ウサギが藁や野菜などを食べて、消化管を進んでいくと”正円小嚢“という小腸と大腸の境目に行き当たります。
 ここで、消化性繊維非消化性繊維の仕分けが行われます。
→ 非消化性繊維は、消化できない食渣なので、大腸に送られ硬便(丸いコロコロ便)として排泄されます。
  消化性繊維は、利用価値のある繊維なので、盲腸に送られ、盲腸でさらなる加工が行われます。
→ 盲腸内には多数の腸内微生物が存在し(ウサギの盲腸内では、1gあたり1000種類、1000億〜1兆個の微生物が存在
  するという報告があります。)、非消化性繊維は、その微生物によって発酵されます。
                           出典:Velasco-Galilea,et al. Frontiers in Microbiology. 2018
→ その発酵産物として、産生されるのが揮発性脂肪酸(VFA)、アミノ酸、ビタミン類などの栄養素です。それらの一  
 部は盲腸内で吸収されますが、一部は吸収されず盲腸便(柔らかいブドウ房状)として体外に排泄されます。
→ ウサギは盲腸便を再度摂取する(食糞)ことによって、必要な栄養素を体に取り入れます。そのため、食糞行動はうさぎにとって栄養素を吸収するために必ず必要な行動です。
 
 

✔️ まとめ
ウサギの消化管は、上記のように、栄養価の少ない植物から効率よくエネルギー産生できます。肉食動物や雑食動物の消化管以上に難しい作業を彼らの消化管は日々行っているんですね。そこで重要なのは、彼らと共生している”腸内微生物”達です。彼らの腸内環境は、この微生物達で決まっていると言っても過言ではないでしょう。そして、この微生物集団のバランスが一旦崩れると消化管トラブル(繰り返す鬱滞や下痢など)に発展します。そして、大きく乱れたこの微生物叢を元の状態に戻すことは容易ではく、エビデンスレベルの高い特効薬はありません。
 消化管内の微生物叢を変えてしまう原因は、いくつか考えられますが、多くの場合で日頃の食事に原因があります。過度な糖質(フルーツ)やでんぷん質(麦やトウモロコシ)など本来の食性から離れた食べ物は、腸内細菌のバランスを大きく変えてしまう原因となり、『鬱滞を繰り返す体質』というやつを作り上げてしまう可能性があります(経験上、個体差はあります)。
 栄養価の高いものは、概して美味しいのでウサギは大喜びで食べますし、ウサギが大好きな飼い主さんにとっても、癒しの一時だと思いますが、多給には気をつけましょう👍🏼。

「口うるさい事をあえて言う」のも獣医師のお仕事の一つですのでお付き合いいただきまして、ここで一つ「なるほど!」っと思って今後のお世話に生かしていただけますと幸いです🐰。


出典:
監修: 三輪 恭嗣 「エキゾチック臨床 Vol.20」.学窓社.2022年. P104
著: 高見 義紀「ウサギの三大疾患 攻略のコツ・胃腸うっ滞」『CLINIC NOTE』2022年. 203巻. P18-29.
Velasco-Galilea,et al. Frontiers in Microbiology. (2018).
Sabuj et al. Journal of Advanced Veterinary and Animal Research(2016).

獣医師になる以前に飼育していたウサギさん(ニコルちゃん)です。人にあれこれ言えないくらい肥満でした…反省