ヨツユビハリネズミ(Atelerix albiventris)の子宮疾患

一般的に日本で飼育されているハリネズミは、アフリカハリネズミ属のヨツユビハリネズミ(Atelerix albiventris)です。飼育下のヨツユビハリネズミにおいて、雌の生殖器疾患は非常に遭遇することが多い疾患です。今回は、当院で経験した子宮内腫瘤のヨツユビハリネズミについて、自宅でも気を付けたいポイントも含めてご紹介します。

遭遇しやすい雌性生殖器疾患
・子宮内膜過形成(最も多いです)
・子宮内膜間質結節(良性)
・子宮内膜間質肉腫(悪性)
・子宮内膜ポリープ      Chambers et al., Veterinary Pathology. 2018

症例
品種:ヨツユビハリネズミ
年齢:4歳2ヶ月齢
性別:雌

主訴
頻回に血尿をしている(院内でも、明らかな陰部からの出血あり)
高齢かつ雌で血尿がみられた場合、かなり高い確率で子宮内の疾患を疑います。
→それ以外の鑑別としては、細菌性膀胱炎・膀胱結石・膀胱腫瘍などがあります。

検査
ハリネズミの場合、検査に協力的ではない事が多い(針を立てて丸まってしまう…)ため、ほとんどの場合、各種検査は鎮静下で実施します。

X線検査
→明らかな異常はみられませんでした。
→膀胱内の結石の評価や、その他の腹腔内臓器の評価のために実施します。子宮に関しては、よほど腫大していない限り、評価は難しい事が多いです。また、この患者さんでは、手術を前提とした麻酔前評価のためにもX線検査を実施しています。

超音波検査
→膀胱内に異常はありませんでしたが、子宮内の一部において液体貯留がみられました。
→この時点でも、生殖器疾患による血尿(出血)を強く疑います。
→その他の臓器に明らかな異常はみられませんでした。

尿検査(手術時に穿刺にて採尿)
→肉眼的には淡黄色で、赤色尿ではありませんでした。
→尿試験紙による検査では、潜血反応ありでした(1+)。
→顕微鏡による評価では、白血球および連鎖球菌が多数みられ「細菌性膀胱炎」を呈していました。

手術・所見
卵巣子宮摘出術を実施
→左子宮角は軽度に腫大している様子がみられましたが、明らかな異常は肉眼的には確認できませんでした。
→ 摘出した子宮の左子宮角を切開したところ、内部に血液貯留および、有茎状腫瘤の発生を確認しました。
 肉眼的には、「子宮内膜ポリープ」を疑いました(ご家族の希望がなかったため病理検査には提出せず)。

⬆︎摘出した子宮


⬆︎術後(筋膜および皮下組織を吸収糸で縫合し、皮膚は医療用接着剤にて閉鎖)

術後経過
→ 麻酔からの覚醒はやや時間がかかりましたが、良好に覚醒しました。
→ 活動性および食欲ともに良好で、翌日に退院しました。
→術後の排尿では、軽度な出血はありましたが、淡黄色の尿を確認しました。