□ 症例概要
夜間診療時間にけいれんしているとお電話がありました。受け入れ可能である旨をお話し、早急にご来院いただきました。
来院時意識レベルは清明~傾眠傾向であり、けいれんは認められず自力歩行が可能な状態でした。
血液検査を実施致しましたがけいれんにつながる大きな異常は認められず、血圧測定において明らかな高血圧症も確認されませんでした。
ご自宅でのご様子等から、頭蓋内疾患(特に脳腫瘍)が強く疑われましたが、ご家族様のご希望もあり、今回は鼻腔内噴霧薬(発作止めの緊急薬)を処方させていただき、ご帰宅となりました。
□ けいれんについて
「けいれん」という言葉を使うと「てんかん発作」を想起する方が多いかと思います。これは獣医療において最も頻繁に遭遇するてんかん発作がけいれんを伴う全般発作であるがゆえであり、てんかん発作=けいれんではないことをあらかじめお話しておきます。てんかん発作はけいれんだけではなく、「同じ行動を繰り返す」、「体がうごかない」、「よだれを流す」などけいれん以外の徴候も発作として現れることがあります。
てんかん発作の原因は多岐に渡りますが、「特発性てんかん発作」、「代謝性発作(反応性発作)」、「器質性てんかん発作(構造性てんかん)」の3つに大別されます。
1 特発性てんかん発作
特発性てんかん発作は脳に器質的異常を認めず、発作の原因として遺伝的要素以外に認められないてんかんを指します。初発の発症年齢は若齢の患者さんに多く、5歳齢以下の発症が一般的とされています。抗てんかん薬の内服により良好なコントロールが得られることが多いですが、なかには難治性てんかんも存在し、良好なコントロールが得られないケースも存在します。
2 反応性発作
反応性発作とは一般的に発作の原因が頭蓋外にある場合を指します。たとば低血糖、肝性脳症、ミネラル異常、中毒物質の摂取がこれにあたります。一般的な血液検査で発見可能な場合が多いですが、早急な対応が必要なケースも存在するため注意が必要です。
3 構造性てんかん
構造性てんかんとは脳構造に器質的異常が発生しているケースを指し、脳炎、脳腫瘍、血栓塞栓症、外傷などがこれに該当します。診断に高度画像検査が必要となる場合もありますが、患者様のプロフィールや症状、基礎疾患から類推することも可能です。
今回のワンちゃんは年齢が高齢であり、初発の発作でした。また血液検査にて反応性発作が除外され、明らかな基礎疾患がなかっため構造性てんかんを疑い、なかでも頭蓋内腫瘍を疑いました。
一部の報告では7歳以上の初発のてんかん発作の8割弱は器質性てんかんであったことが報告されています。
今回の患者様は緊急薬を処方しご帰宅となりましたが、発作の再発を認めたため再来院いただき発作止めの薬を開始いたしました。
発作止めの内服後から発作の再発はなく良好な経過が得られております。